社会の事情

 なお、いろいろ言いたいこともあるが、社会の事情もよくわからんし、また他に相談相手もあることだから、こんなところで止めて置こう。そしてこの上の細かい点については会って打合せすることにしよう。この手紙の着次第、さっそく来て貰いたい。 若宮に本を借りることのできないのは非常に失望した。こんどは山田に相談して見てくれないか。少し専門が違うようだから「順序と組織を立てて」というようには行くまいが、多少あんな類のものを持っていよう。また、他の種類のものでもいい。ともかく、毎月何か二、三冊借りるように頼んで見てくれ。英文、地球の生滅二冊、および植物の精神一冊を堺家から借りて来てくれ。同時[#「同時」は底本では「同事」]にエス文学を忘れないように。先月以来差入れのものはようやく四、五日前に手にはいった。こちらの郵送のものは着いたろうね。 諸君によろしく。さよなら。   * 堀保子宛・明治四十二年二月十六日 かなりの恐怖をもって待ち構えていた冬も、案外に難なくまずまず通過した。もっともこの間には、一月十日過ぎの三、四日の雪の間のごとき、終日終夜慄え通しに慄えていたようなこともあったが、やがて綿入れを一枚増して貰ったのと、天候の恢復したのとで、ようやく人心地に帰って、ついにかぜ一つ引かずにともかくも今日まで漕ぎつけて来た。 監獄で冬を送るのもこれで二度目だが、ここは市ヶ谷や巣鴨から見るとよほど暖かいようだ。それに、僕等の監房はちょうど真南向きに窓がついているので、日さえ照れば正午前二、三時間余りの間は、背を円くして日向ぼっこの快をとることができる。このために向う側の監房に較べて四、五度温度が高いのだそうだ。されば寒いと言っても大がい四十度内外のところを昇降しているぐらいのもので、零度以下に降ったのはただの一度、例の慄え通しに慄えていた時のみだと思う。

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